『意志をつぐ者達へ』
      〜 月 光 〜


 第2章   〜Tactics 〜
       

酒々井PAで、そろそろ引き返そうかと考えながら飲み終えたコーヒーの空き缶を捨てにゴミ箱に向かうと、ゴミ箱の上にあけて無いままの缶コーヒーが捨ててある。
それを見て、やっぱりそうだ!とおもいながらチンチンと鳴く9Rに戻り、9Rの各部を顔に熱気を感じながらチェックする。
カムチェーン側ヘッドパッキンからほんの少しオイルが滲んでいる。
先日代えたメッシュのブレーキラインもフィーリングはいいし、ロッキードのブレーキパッドは当たりが出たようだ。
週末にMOTO-QUESTでMOTULのオイルに交換をしようと思い付き、9Rに股がる。
MOTO-QUESTの社長の勧めでタイヤにチッソを充填した為か、グリップが上がってる様子で、バランスを取る為にキーホルダーの工具で46パイの正立カートリッジフォークのイニシャルを上げてみる。
走り出す準備をし、セルを回しエンジンに火を入れ、フロントフォークを3、4回ストロークさせてからゆっくりと走り出し、目視しながら本線に合流する。
少し流しながらイニシャルアップしたフロントの具合を確認し、メーター80位で、しばらく走る。
そろそろ走るペースを上げようと右のミラーで後方を確認する。っと、HIDの薄青白いライトの閃光がミラー越しに目に飛び込んで来る、なんだ?。
その眩しさに少し瞬きをした後、もう一度確認すると、すでにその車は9Rの倍程のスピード差で真横をすぎる瞬間だった。
黒のセブン、FC3Sだ。
即座にヘルメットのシールドをたたき下ろし9Rに活を入れ、加速する。
5速を使い切った所でその黒いFCのテールに追い付き、あおる程でもない程に詰めるとFCはペースを上げ、巻き上げる砂がパチパチとメットのシールドをたたく。
そのFCはリヤウインドウにスモークのフィルムを貼っていて、ドライバーの様子は伺えないが、時折前方から照らされる光に浮かび上がる室内に斜めに伸びるロールゲージのダイアゴナルバーが見える。
外観のエアロパーツはエアロミラーとリアスポイラーほどで、RE雨宮製ではないだろうか。
メーター180程のハイペースなFCのリアバンパーからは、今のトレンドほど太くは無い、ノーマルライクな左右に振ったエキゾーストのエンドパイプが覗いている。
それらの様子から直感的にブーストアップだとその、習志野、3桁ナンバーのFCを値踏みした後、9Rを右に振り車間を詰め、FCの右のサイドミラーに意識的に9Rが映つるように寄せる。
そうやってFCを挑発するが、FCは譲る気配もなく、これ以上ペースを上げようとしない。
一方的な挑発に乗ってこないので、思い込みだったのかと、しかたなく諦め、9Rを左に振りレーンチェンジしようとウインカーを付けたのとほぼ同時に、そのFCは突然、ウエイストゲェートを開きながら加速した。
トンだカマトトだ、これを狙っていやがったのか。
タイミングのトリックをしかけたFCに遅れまいと、スクリーンに伏せ、即座に追撃に掛かり、9Rのメーターは、200を越えていく。
FCのタクティクスにまんまとハマリ、出遅れ、離された9Rは上のギアーとこの速度域の風圧の為に、イメージしているパワーフィールのように加速しない。
低いスクリーンに押し込んだメットの中でイライラしながら液体のようになった空気の抵抗感の中を、まるで満員電車の人込みをかき分け、もがくように、泳いで行く。
しばらく苦渋をナメさせられたまま、遠く小さくなったFCのテールランプをめがけ、ジリジリと追い縋る。
あと少し!、9RのヘッドライトがFCのリアバンパーに届くほど詰めたその時、ギア−が抜けた様に、フッと9Rが軽くなる、届いた!FCのスリップストリームに入り、小刻みにピッチングをくり返すFCにカチッと詰める。
スリップに入ったまま、成田を過ぎ、2車線に狭まる、2台の前方がクリアーになった所で早めに勝負に出る。
スリップからFCの左側に飛び出し、9RがFCの前輪を追いこそうとする所で、FCは轟くロータリーサウンドを1オクターブ上げおそらく、ブーストのアジャストを上げたそのFCは、ユルユル加速し始めた。
この先、2個目のオービスがあるのを知ってか知らずか、FCは、9Rと並びながら同じ用にスピードを載せて行く。
オービスが来る、FCに引く様子はない、気構える、来るっ!。
と、どう言う訳か、オービスは赤く光らず、無反応で通過してしまう。

気紛れな権力に水をさされ無かった背徳の二台は、何も感じ無かったように並んだまま闇を切り裂いて行く。

路面が荒れ、ピッタリと伏せた9Rのタンクの後端が最近出始めた腹へ、ギャップのたびにボディブローを浴びせる。
9Rのタンクのデザインを恨むべきか、自分のシマリのなさを恨むべきか悩んでいると、タコメーターの針がソロソロと、レッドゾーンに届きそうだ。
FCと並んだままスピードメーターが290の先で止まる、これまでかと諦め、9Rのスロットルをゆっくりと緩めるとFCも同じように、失速した。
どうやらFCとは、五分五分だったようだ。
佐原PAを過ぎると、視界が開ける、利根川の上の長い橋をFCと9Rは、ウイニングラップのようにマシンとマインドをクールダウンするよう、少し距離を取りながら並び、東関ゴールの潮来の料金所に滑り込んで行く。
料金所のボックスの前で収集員にチケット渡してから、財布を出し、まごついていると、FCは、神栖方面のスロープへとゆっくりと消えて行ってしまった。

 そして、PM8:55過ぎ、ひとけも無く、まるで月面基地のような潮来の料金所に取り残されたまま、そこでただ、こごえるようにたたずむしかなく、夜空では追い掛けて来た月が笑い、無軌道なチャレンジを終えた9Rは、息切れするように静かにアイドリングし、その月の月光に照らされていた。


      〜Shift for one self〜

『 打算だらけの世界で日々薄く消えて行くその純粋は、あらゆる魅力さえ汚して見せてしまう。
  限られたそのわずかな真実は、様々な事柄に積み重なり見えなくなってしまう。
呼び覚ませ闘争心を! 走りだせその股がったエンジンで! 創りだせ、新しい純粋な真実を! 』

 

〜月光〜
第1章 〜shift 〜
第2章 〜tactics〜
       /end?、
OCT. 2000 , neil. proof copyright.